東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)301号 判決
事実及び理由
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで審決の取消事由について検討する。
1 取消事由(1)について
(一) まず本願考案のデツキボードについて検討する。
(1) 当事者間に争いのない本願考案の実用新案登録請求の範囲によると、本願考案の荷役用パレツトを構成するデツキボードは、(1) 金属、木材又はこれと同等の剛性を有する合成樹脂からなる芯材を内包し、(2) ゴム又は合成樹脂製などの緩衝用側部を右芯材の端面より相当の厚みをもつて突設しており、(3) その表面が凹凸状に形成されていることを特徴とするものであることが認められる。そしてこのような特徴を有する本願考案のデツキボードは芯材以外の部分が同一の素材によつて構成される場合と緩衝用側部ないし端辺部分がそれ以外の部分と別の素材で構成される場合があること、前者の場合はもとより、後者の場合も両素材が接着して一枚板を成していることは当事者間に争いがない。もつとも、右後者の場合における両素材の接着の態様については、当事者間に争いのない前掲実用新案登録請求の範囲に特段の限定はないが、成立に争いのない甲第二号証(本願考案の明細書及び図面)によると、本願考案の明細書の考案の詳細な説明の項には、両素材を接着剤等で固着してもよい旨記載されている(四頁三ないし六行)ことが認められ、このことと右デツキボードが荷役用パレツトを構成するものであることに徴すると、荷役作業に際してこれに加わる外力に抗して分離することのないよう強固に固着されていると認めるのが相当である。
そうしてみると、本願考案におけるデツキボードは、原告が主張するとおりの不可分一体的な一枚板から成るものであり、緩衝用側部は、右デツキボードのうち特に芯材の側端面からデツキボードの端部までの部分を指称するものであると認められる。従つて、右緩衝用側部は自動車のバンパーのようにこれを必要とする対象物に直接接して設けた別個の部材から成るものではなく、右デツキボードは周知例のように単に芯材がデツキボードに内包されているに過ぎないものでないことは明らかである。
(2) 次に、本願考案における右緩衝用側部の目的、効果について検討する。
前掲甲第二号証によると、本願考案の明細書の考案の詳細な説明中には、「従来の荷役用パレツトでは、フオークさしこみ口にフオークをさしこむ際、フオークがデツキボードの端部に衝当すると、その衝撃によつてデツキボードが変形損傷しやすく、このためパレツトを修理せねばならず、その寿命が短くなるという欠点があつた。」(一頁末行ないし二頁五行)、「前記芯材3を内包したデツキボード2には、ゴム又は合成樹脂製などの緩衝用側部6を、前記芯材3の端部より相当の厚みをもつて突設している。この緩衝用側部6は、フオークさしこみ時においてフオークがデツキボード2に衝突した場合の衝撃を緩和する。」(三頁一〇行ないし一五行)、「本考案は上述した構成よりなるので、フオークさしこみ時において、フオーク爪先端がデツキボードに衝当しても前記した緩衝用側部がこのシヨツクをやわらげ、しかも芯材が緩衝用側部をバツクアツプする結果デツキボードの衝撃による変形、破損、損傷を防止でき、耐久性にすぐれたパレツトとすることができる。」(四頁一九行ないし五頁六行)との記載があることが認められる。これらの記載からすれば、本願考案におけるデツキボードの緩衝用側部は、荷役作業時フオークがデツキボードに衝当した際その衝撃を緩和し、衝撃によるデツキボードないし荷役用パレツトの変形、損傷を防止し耐久性を高める目的及び効果を有するものであることが認められる。
(二) 次に引用考案におけるデツキボードについて検討する。
(1) 引用例には「デツキボードと、これと間隔をおいて設けられた含気発泡体からなるエツジボードとで構成された荷役用パレツト」が記載されていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三号証によると、引用考案のデツキボードは複数の板体が一定の間隔を置いて配列された構成のものであることが認められ(別紙(二)図面参照)、引用考案のデツキボードとエツジボード(緩衝用側部材)は、本願考案のデツキボードと緩衝用側部のように一枚板から成るものでないことは明らかである。
(2) 次に引用考案におけるエツジボードの目的、効果についてみるに、右エツジボードは、前叙のとおり耐衝撃性の材料から構成されているから、本願考案の緩衝用側部と同様、荷役作業時フオークがこれに衝当した際その衝撃を緩和し衝撃によるデツキボードないし荷役用パレツトの変形、損傷を防止し耐久性を高める目的、効果を有するものと認められる。
(三) そこで、本願考案におけるデツキボードの前記構成の着想の困難性についてみるに、一般に緩衝部材を緩衝すべき対象物に間隙をおくことなく直接接して設けることが周知の技術である(このことは原告も認めて争わないところである。)から、引用考案のデツキボードを一枚板で構成しようとする場合に、これに加わる衝撃を緩和し、その変形、損傷を防止する等前記の目的から、エツジボード(緩衝用側部材)を設けることに代えてデツキボードの端部に緩衝用側部を芯材の端面より相当の厚みをもつて突設するように構成することは当業者であれば極めて容易に想到できる事項であるということができる。そして、このようなデツキボードは、芯材以外の部分が同一素材によつて構成される場合は勿論のこと、緩衝用側部ないし端辺部分がそれ以外の部分と別の素材で構成されている場合にも、前述のとおり荷役作業に際してこれに加わる外力に抗して分離することのないよう強固に固着することにより、原告の主張する不可分一体的な一枚板とすることは当業者が当然に想到できることというべきであり、本願考案の明細書(前掲甲第二号証)を検討しても、このような点について特に困難性があつたことを窺わせる記載はない。
(四) 以上のとおりであるから、取消事由(1)の主張は採用できない。
2 取消事由(2)について
本願考案において、緩衝用側部がデツキボードにフオークが衝当した際その衝撃を緩和し衝撃によるデツキボードないしパレツトの変形、損傷を防止し耐久性を高める作用を有することは前述のとおりであり、従つてパレツトに荷物が積載されている場合には荷滑りの防止にも役立つことは明らかである。また前掲甲第二号証によれば、デツキボードの表面を凹凸状に形成したことにより荷滑り防止の効果を有すること及びデツキボードに金属、木材又はこれと同等の剛性を有する合成樹脂からなる芯材を内包していることにより、デツキボードが剛性を有し、積載重量を大きくすることができるとの効果を有することが認められる。
しかしながら、このような各効果は、それに対応する構成を採用した場合に当然予測されるものであり、右の各構成を組合せた効果もまたその総和以上のものではないから、本願考案に関する原告主張の作用効果は、予測の範囲を超えた顕著なものということはできない。
そうすると、審決が本願考案の作用効果について特段論及しなかつたとしても違法ということはできず、取消事由(2)の主張も採用できない。
三 よつて、原告の本訴請求は理由がないから棄却する。
〔編註〕本願考案の登録請求の範囲は左のとおりである。
金属、木材又はこれと同等の剛性を有する合成樹脂からなる芯材を内包したデツキボードに、ゴム又は合成樹脂製などの緩衝用側部を、前記芯材の端面より相当の厚みをもつて突設すると共に、デツキボードの表面を凹凸状に形成したことを特徴とする荷役用パレツト。